大人の発達障害の診断と治療

2005年の発達障害者支援法の施行やメディアの特集により、一般的に「発達障害」という概念は広く知れ渡るようになりました。
そして、成人になり「自分って発達障害?」と思って来院する、いわゆる「大人の発達障害」を疑い来院する患者数は増えていると言われています。
しかし、言葉だけが広まり、障害理解や支援方法などが十分に機能しているとは言えないのが現状です。
そこで、今回は当院で行っている発達障害の診断と治療・支援について書いていきたいと思います。

〇発達障害とは
発達障害の種類はASD、ADHD、LDの3つに大別できます。また、中には複数の特性を抱えている方もいます。

―ASD(自閉スペクトラム症/自閉スペクトラム障害)
大きく「社会的コミュニケーションの苦手さ」「興味の偏りやこだわりの強さ」の二つの特徴があります。

例)・視線が合わない
  ・曖昧な指示や言外の意味を理解できない
  ・状況が読めず場にそぐわない発言をしてしまう
  ・急な予定変更についていけず、臨機応変な対応ができない
  ・興味のあることを一方的に話続ける

―ADHD(注意欠如・多動症)
「不注意」「多動性・衝動性」が主な特性として挙げられます。また、大人になると目に見える多動症状はおさまってくることが多いと言われています。

例)・忘れ物が多い
  ・整理整頓が苦手
  ・遅刻が多い
  ・ケアレスミスが多い
  ・落ち着きがなく手足をそわそわと動かしている
  ・思い付きで話すことや失言が多い
  ・仕事を過剰に詰め込みすぎたり予定を詰め込みすぎたりする

―LD(限局性学習症)
知的発達な遅れがないにもかかわらず、特定の分野の学習において著しく困難が生じる障害です。

例)・文字を読めない
  ・文字を書くことができない。書字に非常に時間がかかる。
  ・数の概念の理解が困難など、計算(算数)が著しく苦手

〇診断

―成育歴の聴取
発達障害の特性は大人になってから突然現れるものではなく、幼少期から症状の連続性が認められることが不可欠です。そのため、本人からのお話はもちろん、母子手帳や通知表など客観的な情報ももとに、幼少期から現在に至るまでのご様子を丁寧にお聞きしていきます。

―心理検査
診断補助として心理検査を行います。発達障害の診断に役立てられる心理検査は複数ありますが、代表的なものは知能検査となります。発達障害には特徴的なプロフィールがあると言われていますが、個人差も大きいため、一人一人の特徴を見ていくことが大切です。

〇治療・支援

―薬物療法
ADHDに対しては3種類の薬(➀コンサータ➁ストラテラ③インチュニブ)が有効とされています。それぞれ効果は異なるため、困りごとや生活環境に応じた、自分に合った薬を選んでいきます。ただし、こうした薬物療法は有効ではありますが、根本治療ではなく対症療法であることも理解しておくことが大切です。

また、ADHD、ASD、LDといった発達障害の人は、うつ病や不安障害などの二次障害がある方も少なくないため、そうした二次障害の治療で薬物療法を行うこともあります。

―心理教育
発達障害の治療のためには、特性に合った対処や工夫によって社会適応力を上げていくことが大切です。そのためには、まずは本人や家族が発達障害の特性について理解することが欠かせません。発達障害の特性や、心理検査結果を通して個人の持つ特性についての理解を深めていきます。

―カウンセリング
大人になってから発達障害の診断を受けることで、安心する方もいますが、受け入れが難しい場合もあります。また、自己否定的になりやすかったり、対人関係や将来のことで悩んだりと葛藤が生じやすいため、そうした場合には時間をしっかり取って個別にカウンセリングをすることが有効です。

―環境調整
自分の特性を知り自己理解を深めたら、自分に合った環境を選びましょう。例えば就労で言えば、単調作業を嫌がらずにコツコツできる方の場合、営業や企画より事務仕事の方が向いているかもしれません。聞いて覚えることが苦手な場合は、メールや書面でも指示があると分かりやすいことが考えられます。また、就職する方法も、クローズ就労(障害を非開示で就労すること)、オープン就労(障害を企業に開示して就労すること)の選択肢があります。いずれにせよ、自分の特性に合った働き方や就労環境を選ぶことが、社会適応(=治療)につながります。

参考文献:
『職場の発達障害 ADHD編』太田晴久・監修(講談社)
『職場に発達障害 自閉症スペクトラム症編』太田晴久・監修(講談社)

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